記
〇こんなことが起きるなんて!とても、驚いています。
私が衆議院に初当選して、今から26年も前に法務委員会で初めて行った質問が、毎日新聞に掲載されたのです(同紙、令和5年9月8日付夕刊。論説委員、佐藤千矢子氏の特集ワイド・はじまりのうた欄、「うるさん」のこだわり)。
〇少し長くなりますが、以下、その部分を引用させてもらいます。
・20年以上に及ぶ連立政権を振り返るうち、漆原氏は1996年に自身が初当選した後、衆議院の法務委員会で質問した三つの政策のことを語り出した、
一つ目は、経済的に余裕のない人の無料法律相談や弁護士・司法書士費用の立て替えをする「民事法律扶助制度」の実現。
二つ目は、結婚していない男女間に生まれた婚外子(非嫡出子)の相続分を法律婚の子(嫡出子)の半分とする差別の撤廃。
三つ目は、夫婦が望む場合には、結婚後もそれぞれ結婚前の姓を使うことを認める「選択的夫婦別姓制度」の実現だ。
・「最初にできたのが民事法律扶助制度、2番目が最高裁が違憲判決を書いた婚外子の相続分差別の撤廃。まだできていないのが選択的夫婦別姓。『選択的』なんだから、何も日本を変えるという話ではない。『こうしたい』という人に、その道を与えるだけだ」
・(うるさんは)国対委員長の経験から政局のイメージが強いが、実は政策の人でもある。過去の議事録を読むと、三つの政策を何度もしつこく取り上げていた。通底していたのは、人権への鋭い意識だ。
〇民事法律扶助制度の実現について。
・民事法律扶助制度の実現は、私の弁護士生活28年の結論であり、衆院選で最も力を入れて訴えた選挙公約の一つです。
しかも、衆議院法務委員会での質疑の中で、小渕内閣総理大臣が日本の総理として初めて民事法律扶助制度の導入を答弁されたのです。私にとっても忘れ難い大きな出来事でした。
以下、衆議院法務委員会における、私と小渕総理大臣との質疑を紹介します(H11.4.21.衆議院法務委員会議事録)。
(漆原)憲法32条は、国民の裁判を得ける権利を基本的人権として保障しております。私は、法律扶助というのは、この国民の裁判を受ける権利を実質的に、制度的に保障する重要な制度だというふうに考えていますが、まず、この点に関する総理のご見解を承りたいと思います。
(小渕内閣総理大臣)ご指摘のとおり、民事法律扶助制度は、憲法第32条の裁判を受ける権利を実質的に保障するという理念のもとに充実が図られてきた重要な制度であると承知しております。
(漆原)我が国の法律扶助制度の実績、諸外国の実績に比べて非常に貧弱だと言わざるを得ないというのが私の考えでございます。例えば、国庫負担金で比較してみますと、英国は94年1146億円、米国94年462億円、独90年363億円、仏93年度182億円、スエ―デン93年度45億円、お隣の韓国でも97年度の実績が14億4400万、こうなっております。
これに対して、我が国の実績、96年でございますが、2億7100万円、しかも、法律扶助に対する根拠規定すら日本にはない。実際には、民間団体であります財団法人法律扶助協会と言うところに国から寄付をするという格好で国庫負担がなされているわけです。
(中略)・・・総理、今おっしゃって頂いたように、法律扶助は憲法32条を実質的に保障する権利なんだというご認識であるとすれば、きちっと真正面から取り組んでいくべきだ、法律扶助協会、民間団体に寄付と言う格好ではなくて、きちっと根拠法を作って国の事業としてやっていくべきだと私は考えます。・・・(中略)・・総理のご見解を承りたい。
(小渕内閣総理大臣)民事法律扶助制度につきまして、現在法務省におきまして、その充実強化を図るため、出来る限り早期に法制化することを含め検討していると承知を致しております。ここに法務大臣がおられますので、具体的時期等についてはどのようになっておりますか、ご答弁頂いても結構だろうと思います。
(陣内法務大臣)法制度化の時期に尽きましては、次期通常国会に法案を提出することも、念頭に置きまして事務局に検討させておるところでございます。
・日本における民事法律扶助制度の導入が、総理大臣答弁によってはじめて宣言された画期的な瞬間でした。
「野党に手柄を与えず」、国会運営の鉄則です。野党のしかも1年生坊主の私の質問に小渕総理が何故こんな重要な答弁をされたのか、全く不思議でした。しかし、後で分かりました。自公連立の直前だったのです。しかも、冬柴幹事長や浜四津敏子議員もこの問題には熱心でした。総理の答弁は、公明党に対する小渕総理の配慮だったのですね。
その後、民事法律扶助制度は、平成16年に「総合法律支援法」の成立、平成18年4月10日「日本司法支援センター」の設立を経て実施され今日に至っております。なお、当初48億円から出発した予算も令和5年度には、330億1400万円に増額されていることは、周知の通りです。
〇非嫡出子の相続分差別の撤廃について
・衆議院法務委員会で何度も法務大臣と議論を重ねましたが、平行線でした。その要旨を議事録で紹介します(平成9.5.28.衆議院法務委員会議事録)。
(漆原)先回、私は、非嫡出子は嫡出子の2分の1の相続分しかないというこの民法900条4号但し書き前段の規定は、憲法14条で禁止している社会的身分による差別ではないかと指摘させて頂きました。これに対する大臣のお答えは、民法900条の規定は法律上の家族関係の保護という観点から合理性を持っているので憲法違反ではないというお答えだったと思います。もう少し具体的に説明していただければと思います。
(松浦法務大臣)極めて端的に申し上げるならば、法律上の夫婦とその間の子から出来上がっております家族を保護していこう、こういうことだと思います。
(漆原)ただ、私が申し上げるのは、非嫡出子の立場に立ってみた場合、いわゆる婚外子は自分が婚外子であることに対して全く責任が無い、・・・(中略)・・・民主主義の社会と言うのは、自分の責任によって責めを受けることはやむを得ないけれども、自分ではどうしようもないことで、自分の努力では如何ともし難いことで不利益を受けることは不合理な不利益だという考えが先ずその前提にあるのではないかと私は思います。・・・(中略)・・・法律婚主義を維持するために婚外子が不当な差別を受けるということでは本末転倒であって・・・(中略)・・・生まれてきた子供には何にも罪がない、その子供が不利益を受けるという制度はやはり合理性が無いのではないかと考えますが、如何でございましょうか。
(松浦法務大臣)最高裁判所の判示の中でも、法律婚の尊重を図る一方、嫡出でない子供にも一定の相続分を認めることにより法律婚の保護と嫡出でない子の保護との調和を図ったものである、そういう趣旨の判示がございます。
・国会で平行線の議論をしていた平成25年9月4日、最高裁判所は、非嫡出子の相続分差別を認めた民法の規定は、法の下の平等を定めた憲法に違反して無効だとする決定をしました。
判決理由では、「父母が婚姻関係に無かったという、子にとって選択の余地がない理由で不利益を及ぼすことは許されない」、非嫡出子に対する相続分差別を定めた民法の規定は「規定の合理的根拠は失われている」と判示したのです。
・その後、平成25年12月5日、民法の一部を改正する法律が成立し、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等になり、漸く差別は解消されることになりました。
それにしても、遅すぎますね。しかも、最高裁から違憲判決の指摘を受けて漸く法改正に動き出すなどということは、人権意識の観点から見ても立法府として大変恥ずかしいことだと思います。
〇選択的夫婦別姓制度について(法務省のホームページから)
<選択的夫婦別姓制度とは?>
・選択的夫婦別姓制度とは、夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める制度です。
現在の民法の本では、結婚に際して、男性又は女性のいずれか一方が、必ず氏を改めなければなりません。そして現実には、男性の氏を選び、女性が氏を改める例が圧倒的多数です。ところが、女性の社会的進出等に伴い改氏による職業生活上や日常生活上の不便・不利益、アイデンティティの喪失など様々な不便・不利益が指摘されてきたことなどを背景に選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見があります。
<検討経過>
・平成8年2月、法制審議会が「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申。同要綱には、選択的夫婦別姓制度の導入が提言されています。しかし、立法府の同意を得ることが出来ず、現在に至るも法案の国会提出には至らない。
<賛否の理由>
(賛成)
@氏を変更することによって生じる現実の不利益があること、
A氏を含む氏名が、個人のアイデンティティに関わるものあること、
B夫婦同姓を強制することが、婚姻の障害となっている可能性があること。
(反対)
@夫婦同氏が日本社会に定着した制度であること、
A氏は個人の自由の問題ではなく、公的制度の問題であること、
B家族が同氏となることで夫婦・家族の一体感が生まれ、子の利益にも資すること。
<外国の例>・・平成22(2010)年法務省の調査
1,夫婦同氏と夫婦別氏の選択を認めている国
・アメリカ(ニューヨーク州の例)、イギリス、ドイツ、ロシア
2,夫婦別姓を原則とする国
・カナダ(ケベック州の例)、韓国、中華人民共和国、フランス
3,結婚の際に夫の氏は変わらず、妻が結合氏となる国
・イタリア
もっとも、法務省が把握する限りでは、結婚後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければならないとする制度を採用している国は、日本だけです。
・選択的夫婦別姓制度の導入問題、平成8年初当選以来、私は時の法務大臣と何回も議論してきましたが、全く平行線です。
そもそも「選択制」なんですから、現在と何も変わりません。家族の崩壊や、伝統的な日本の価値観が崩れる心配もありません。
「結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を名乗りたい」と望む人達が晴れ晴れとその道を歩むだけです。
以上
令和5年9月20日
元公明党国会対策委員長
漆原 良夫