★政府は、死刑制度の正当性について「国民の8割の支持を得ている」ことを根拠にして来ました。また、国連人権委員会から死刑制度の廃止を勧告された際にも、我が国の死刑制度については、十分に日本国民の理解が得られていると説明しています。
確かに、2019年度に実施された死刑制度に関する政府世論調査の報告書によれば、「死刑制度の存廃」についての回答は、
ア 「死刑は廃止すべきである」・・・9%
イ 「死刑もやむを得ない」・・・・・80.8%
の割合であったと報告されています。
問題なのは、この数値をもって「国民の8割の支持を得ている」、「十分に日本国民の理解が得られている」と評価出来るか否かということです。
★同時に行われた世論調査の中で政府は「将来も死刑存置か」、「終身刑を導入した場合の死刑制度の存廃」の2点についても国民の意見を尋ねています。
その結果、「死刑はやむを得ない」と答えた80.8%の人の中に、「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と回答した人の割合が39.9%であった。
更に、仮釈放のない「終身刑」が新たに導入されるならば、「死刑を廃止する方が良い」と答えた人の割合が35.1%であったことが報告されていました。
しかし、次に述べる通りこの2点に関する国民の声は、「死刑制度の存廃」については、全く反映されていないのです。
★政府の世論調査では、死刑制度の存廃についての選択肢が「死刑は廃止すべき」と「死刑もやむを得ない」の二者択一となっているため「終身刑導入」や「将来の状況変化」に関する国民の意見は、「死刑制度の存廃」の設問には全く反映されない仕組みに成っています。
その結果、回答者は「死刑もやむを得ない」を選択せざるを得ず、80.8%の高い数値になってしまったのです。
逆説的に言えば、「死刑もやむを得ない」という80.8%の数値は、「状況が変れば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と答えた39.9%、「仮釈放のない終身刑が新たに導入されるならば、死刑を廃止する方が良い」と答えた35.1%の国民の声を包含しているということです。
★今回の調査では、「仮釈放のない終身刑の導入」や「将来の状況の変化」など一定の条件が整えば「死刑を廃止した方が良い」との回答が4割近くもあったことが明白になりました。
私は、以上の事情から「国民の8割の支持を得ている」、「大半の国民に支持されている」との政府の説明は、死刑制度に関する国民の声を正確に反映しているとは思えないのです。
以上
弁護士 漆原 良夫